複数の仕事をすることについて

結城浩

2002年4月10日

以下、思いつくままの自動書記。

複数の仕事をすることについて。

私は複数の仕事を並行して行っている。 まあ、多くの人はそうだろうけれど。 複数の仕事というのは、 たとえば書いた本の校正、連載記事の校正、新しい本の執筆、 連載記事の執筆、Webの更新、メールマガジンの執筆、 新しい企画の検討、提案、などなど、 そういうことである。 並行して行っている、とはいっても、本当の意味で同時に複数の仕事ができるわけではない。 一度には1つの仕事しかできない。ということは、つまり、 複数の仕事を切り換えつつやっているということだ。 私なりにしっくりきている仕事のやり方はこうだ。

まず、新しい仕事に名前を割り振る。 たとえばデザパタ本の場合は[DP]という名前をつけた。

そしてパソコンにその仕事をするためのディレクトリを作る。 [DP]の仕事をする場合には、そのディレクトリ上であれこれ考える。

考え事はエディタ上で行う。 ちょうど、にっこり微笑んで静かに私の話を聞いてくれるパートナーに対して話すように、 私はエディタに向かって話す。というか、考える。手を動かしながら考えていく。 この仕事のポイントは何か、どういう形に進めていくべきか。いつ、誰に対してどういうアクションを行うか、 自分が勉強すべきこと、読むべき本、参照すべきWebページは何か、 …そういったことを書いていく。エディタで書くときには、何でも書く、というのがポイントだ。 人に見せるわけでもないから、思いついたことをどんどん書いていく。 そのうちに人に見せられるものの元ネタが出来てくる。

疲れたら他の仕事にうつる(つまり、他のディレクトリに移る)。 そしてその仕事で前回やっていたことを思い出す。 思い出す、っていうのは、 前回書いていたファイルを読み返すことに相当する。 たいていの場合、前回書いていたファイルを読むと、驚く。 なるほどね、と思ったりする。それだけ私は忘れっぽいのだ。

文章を書くのはテキストエディタを使う。 ワープロやアイディアプロセッサのような特別なソフトはいらない。 理由はいくつかある。エディタはすぐ起動するし、反応も早い。 それに自由度が高い。そして最も大事なことはテキストファイルがもっとも寿命の長いファイルフォーマットだ、 ということだ。 いまディスクをちょっと探してみたところ、 10年以上前にも、私は似たようなやりかたで仕事をやっていた。 そのころ書いた原稿ファイルも見つかった。 そのころ書いたアイディアメモもまだ生きていた。 テキストファイルだからだ。 私はときどき、夢空間への招待状の原稿をWebで公開するが、 それは、当時書いていた原稿がテキストファイルで生き残っているからできることだ。 きっと、いま書いているたくさんの文章(その中には、すぐ編集部に出すものもあるし、Webで公開するものもある、 そしてとりあえずは公開することを考えずに書いているものもある)も、 いつか熟成すれば形になることだろう。

他の仕事にうつる前にやっておくべき大事なことは、 現在自分がやっていたこと、ひっかかっていたこと、 できたこと、などの「自分の(その仕事における)現在の状態」を 文章の形でテキストファイルに残しておくことだ。 この文章が次回の仕事のスタートポイントとなるのだ。

こうやって複数の仕事を並行して進める基礎となっている技術は何だろう。 タッチタイピング。テキストエディタの取り扱い。 テキストファイルの取り扱い。ディレクトリの管理。 自分が考えていることを文章化する力。 あとは、さまざまな処理をconsistentに行うこと。 それくらいだろうか。 複数人での共同作業なら、他にもいろいろ工夫すべきことはあるだろうが、 複数の仕事を一人でする場合には、このくらいで十分だ。

大事なことは、 ちょっとだけ「試す」技術と、 自分の毎日の仕事として「使い続ける」技術を分けて考えることだ。

ああ、そうだ。メールについても書いておこう。 特定の仕事にからんだメールの表題には仕事の名前を付けておく。 たとえば、デザパタ本の場合には[DP]をつける(少なくとも[DP というプレフィクスをつける)ようにしている。 そうすると、メールの振り分け機能をつかって、ある仕事に関連したメールを自動的に整理できる。 そうやって振り分けしたメールを元にして、 私は「読者の声」というページをサイトのあちこちに作っている。

複数の仕事を進めることに関して、思いつくまま書いた。

以下のページもご参考に。