スティーブン・キング『小説作法』

結城浩

2001年12月7日

スティーブン・キングの『小説作法』を読む。

むちゃくちゃ面白い。アマゾンでこの本のことを知ってから、 絶対これは私の好きな本だ。面白いに違いない、と思っていたが、まさにその通り。 キングは言うまでもなくホラー小説の大家であり、小説でも映画でも大人気のベストセラー作家である。 『小説作法』は、幼少時代の思い出から始まって、キングの下積み時代の苦労話を語る。 極貧の中で書く。 キングは自分自身の姿——いや、キングとタビサの2人の姿——を描く。 この夫妻は苦労を共にし、互いに愛し合い、助け合っている。 相手のことを信頼し、励まし、他に誰一人も理解してくれる人がいなくても互いに理解しあっている。 キングはアルコール中毒になる。アルコール中毒の中でキングは書き続ける。 そしてタビサはキングをアルコール中毒から救い出す。

キングは思い出だけを書くのではない。 本書の中心にあるのは「言葉」だ。 キングは、正統的な文章の書き方を説く。 最初に薦める本はThe Elements of Styleだ。 文章は大文字ではじめ、ピリオドで終えよ。 小説は「一語一語」書くしかない。 副詞を削れ。受動態をやめよ。 第1稿はドアを閉じて(自分のために)書き、 第2稿はドアを開いて(他の人から読まれることを考えて)書け。 「第2稿=第1稿−10%」という公式を使え。 読者の反応を考えて書け。

1人のドライバーが1999年にキングを車ではねた。 この『小説作法』の執筆途中の出来事である。 ヘリコプターがキングを病院へ運ぶ。 キングはそのいきさつも書く。 そして奥さんのタビサがキングをいかに支えたかも。 キングは事故の後、5週間で仕事を再開した。

スティーブン・キングの作品の好き嫌いに関わらず、 文章を書く人は『小説作法』から多くを得るだろう。 少なくとも私は、昨日一日で『小説作法』から多くを学んだ (一日で読んでしまった。途中でやめられなかったのだ)。 文章を書かない人であっても何かを得るだろう。 読みながら私は何度も涙ぐんだ——文章と人生に対するキングの態度に。