仕事をするときの基本原則

結城浩

2003年3月18日

今日はいつものように説教くさい話である。 説教くさいが、抹香くさくはない、はず。

あなたは「仕事をするときの基本原則」を持っているだろうか。

本屋さんに行くと、仕事の進め方、デキる奴がどうするだのこうするだの、 ノウハウ本がたくさん並んでいる。 でも、実は大切な原則はたった1つだ。 たった一つの原則からほとんどすべての方法論が生まれてくる。 しかも、その原則は一言で表現することができる。

そう、「愛」である。

とはいっても、「愛」ではあまりにも抽象的過ぎるから、 もう少し具体的な表現として展開してやる必要があるだろう。 たとえばこうだ。

「相手のことを考える」

私はこの話を何度も何度も書いてきている。 でも、毎日の仕事の中で私は、 この「相手のことを考える」という原則が非常に有効であることを体験している。 だからいま、もう一度、私の日記の読者とシェアしようと思うのだ。

  • 打ち合わせの資料、どんな風にして作ったらいいんだろう。
  • トラブルが起きたとき、どんな応対をすればいいんだろう。
  • この件に関して、上司への報告はどうすればいいんだろう。

仕事をしている人はみな、このような問題に悩む。 それらすべてに対して、基本原則「相手のことを考える」をベースにして手がかりをつかむことができる。

  • 打ち合わせの資料、どんな風にして作ったらいいんだろう。——相手のことを考えてみよう。 相手はその資料を手にして何を考えるだろう。何をその資料に求めるだろう。その資料をそもそも読むんだろうか。
  • トラブルが起きたとき、どんな応対をすればいいんだろう。——相手のことを考えてみよう。 相手は何に困っているのだろう。本当に困っているポイントは何だろう。相手は解決を求めているのだろうか、謝罪を求めているのだろうか、そして…。
  • この件に関して、上司への報告はどうすればいいんだろう。——相手のことを考えてみよう。 上司はその報告を聞いてどうするんだろう。報告を元に何か判断するんだろうか。上司も、誰かに報告をするんだろうか。そもそも私が考えるべき「相手」は上司なんだろうか…。

多くの場合「相手のことを考える」ためには、普段から相手のことを考えていなくてはならない。よく周りを観察していなければならない。 また「相手のことを考える」ためには、想像力と客観性が必要だ。それは人によって得意不得意があるだろう。 でも「相手のことを考える」というのはとてもよい出発点のはずだ。

相手のことをかんがえて行動しようとすると、何かにぶつかることがある。たいていは「自分」にぶつかる。 自分の思惑、自分の利益、自分が守りたい自分の心、自分の怠惰…そういう自分にぶつかって、大きな障害となるのだ。 私たちは完全な人間ではないから、完全に相手のことだけを考えて行動することはできない。 でも、自分をごまかしてはいけない。理由をでっちあげるのではなく、 「本来はこうすべきだが、今回はこうしよう。 これは自分の弱さかもしれないが、このラインが自分の現在の力量だ」 といった判断を下すことは大事だ、と思う。 そういう「見極め」をやっていると、不思議なことに、他の人の動向や気持ちがよりよくわかってくる。

  • あっ、あの人がいま反論したのは、本当にプロジェクトのことを考えたからではなく、 自分が出した意見を引っ込めるわけにはいかないから、という理由のようだ。
  • いまあの人が別の話題に切り替えたのは、チーム全体の雰囲気を前向きにしようと考えたからかもしれない。

…そういう流れが見やすくなるように感じられる。

「相手のことを考える」という出発点、 基本原則に立つのは決して能力の問題ではない。 習慣の問題だ。要するに「慣れ」である。 いつも、まず「相手のことを考える」という出発点に立つ習慣をつけていると、 たとえ、自分の行動になかなか反映されないとしても、 不思議な面白さが、日々の仕事の中に現れてくるに違いない。

「相手のことを考える」という原則——つまりは「愛」の原則——を、 私は聖書から学んだ。 教会で学んだ。 聖霊さまから学んだ。 これは仕事に限らず、人間が登場するありとあらゆる場面に適用できるすばらしい原則である。 しかもそれは「愛」の序の口に過ぎないのだ。 「相手のことを考える」の先には、 「なかなかそのようにできない愛なき自分の発見」があり、 「自分の弱さにこそ働いていてくださるイエスさまの発見」があるのだ。 そこまでいくと、 「自分の弱さを喜び、弱い自分を「土の器」として神さまに用いてもらうことの喜び」までは、ほんの一歩だ。

今日、「相手のことを考える」という基本原則に立ってみよう。

仕事をしているあなたに、イエスさまの恵みと祝福がいつもありますように。