文章についての長男との対話

結城浩

2001年12月30日

のんびりと「文章教室」の企画の準備をしている。 10回分まで書いてしまった。全然「のんびり」じゃない。

リビングでソフトバンクの封筒の裏に「文章教室」のメモを書いていると、 長男が尋ねてくる。

長男「おとうさん、何してるの」
 私「(書きながら)ん? お仕事の文章を書いているよ」
長男「お仕事の文章って何?」
 私「文章の書き方を教える文章だよ」
長男「ふうん(といいつつひざに乗ってくる)」
 私「文章を書くときには『既知から未知へ』という順番で書くんだ」
長男「キチって秘密基地?」
 私「(笑って)違うよ。既知は『もう知っていること』で、
   未知は『まだ知らないこと』なんだ。文章は、
   『もう知っていること』からはじめて、
   だんだん『まだ知らないこと』に進むのがいいんだよ」
長男「ふうん」

 私「たとえば、ベイブレードの裏技の文章を書くとしようか。
   そのとき、ベイブレードのことを何にも知らない人に
   いきなり『ベイブレードの裏技』なんていってもわからないよね。
   ベイブレードって何?って聞かれちゃうから。
   ベイブレードって何だろう」
長男「コマみたいなものだね」
 私「ベイブレードを知らない人でもコマは知っているかもしれない。
   まず『ベイブレードはコマみたいなものです』ということを書く。
   その後でベイブレードの話を書く。
   コマが既知、ベイブレードは未知。
   『既知から未知へ』というのはここでは『コマからベイブレードへ』ということだ」
長男「ふんふん」

 私「じゃあ今度はインターネットのことを知らない人に対して、
   キッズグーのページで紙飛行機のPDFをダウンロードする話を書くとしよう」
長男「インターネットのことを知らない人に?」
 私「そう。コンピュータのことも知らないとしよう」
長男「ええ? … じゃあ、コンピュータの話をして、インターネットの話をして、
   キッズグーの話をしてっていう順番だね!」
 私「うん、そうなる。でもね。それではとても遠回りだ。
   そんなときにはまず、紙飛行機の話をしちゃうんだ。
   インターネットで紙飛行機をダウンロードする話はわからない人でも、
   紙飛行機のことはわかるかもしれない。だからそれを先に話す。
   紙飛行機を作るんだよ、って話をする。そしてそれから、
   その紙飛行機の型紙はインターネットを使ってゲットする、
   って話をするんだ」
長男「ふうん。相手によって話し方を変えるんだね」
 私「まさに、そのとおり。文章を書くときにはそれが大事なんだ。
   読者のことを考えて文章を書くこと、それが大事」
長男「何を知っているのか、がわかんないと、わかってもらえないんだね」
 私「そのとおり。よくわかったね。かしこいねえ」
長男「へへ」

 私「じゃあ、ウノしようか」
長男「うん!(と言ってひざから飛び降りる)」