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こんにちは、結城浩です。 文章教室の第7回は、「よい比喩を使いましょう」がテーマです。
よい比喩(ひゆ)を使うと、 文章は飛躍的に読みやすく、分かりやすくなります。 次の(1)を読んでみてください。
(1) プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
(1)の文章では3つのプログラムとデータについて解説しています。 これはそれほどおかしな文章ではありませんし、 読めば理解できるでしょう。
しかし、次のように比喩を使って解説を補うと、 より読みやすく、分かりやすくなります。
(2) プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
いわば、 この3つのプログラムは、 データというバトンを渡していくリレーの選手なのです。
(2)では、 プログラムの振る舞いをリレーの選手にたとえ、 渡すデータをバトンにたとえています。 これで、3つのプログラムの振る舞いを頭の中でイメージしやすくなります。
対応関係は次のようになります。 表にするほどのことではありませんが。
プログラム | データ |
リレーの選手 | バトン |
(2)では、 文章の最後に比喩を持ってきました。 こうすると、 読者は、自分の理解が正しいかどうかを比喩によって確認できます。
次の(3)では、比喩を文章のはじめに入れています。
(3) 3つのプログラムA, B, Cは、 データというバトンを渡していくリレーの選手のようなものです。
プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
(3)の場合、 読者はまず比喩を読んでイメージをつかんでから 詳しい内容を読むことになります。
(2)と(3)のどちらがよいかはいちがいに言えません。
よい比喩は、読者の理解を助けますが、 わるい比喩は、読者の理解を妨げます。
次に示す(4)はわるい比喩の例です。
×わるい比喩(比喩になっていない)
(4) プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
いわば、 この3つのプログラムは、 プレゼント交換をしている恋人同士なのです。
(4)ではプログラムを「プレゼント交換をしている恋人同士」にたとえていますが、 これは比喩になっていませんね。 あ、いま笑った方もいらっしゃいますが、比喩になっていない比喩を使った文章って、 意外とあるんですよ。
次に示す(6)も別の意味でわるい比喩の例です。
×わるい比喩(過剰な対応付け)
(6) プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
いわば、 この3つのプログラムは、 データというバトンを渡していくリレーの選手なのです。 プログラムAはバトンを作り出し、 プログラムBはバトンにリボンをつけます。 プログラムのユーザは、 リレーの選手を応援している応援団です。
(6)では、バトンとリレーの選手という比喩をどんどん拡張しています。 データの作成をバトンの作成にたとえ、 データの加工をバトンにリボンをつけることにたとえています。 ここまでは(比喩として苦しいですが)ぎりぎりセーフかもしれません。 でも、プログラムのユーザを、 応援団にたとえるのは無理でしょう。
よい比喩を使うのは読者の理解を助けますが、 比喩はあくまでも理解を助ける補助の役割にすぎません。 無理やり100%の対応づけを行ってはいけません。
次に示す(7)もわるい比喩の例です。
×わるい比喩(比喩の方が理解しにくい)
(7) プログラムAは、作り出したデータをプログラムBへ渡します。 プログラムBは、そのデータを加工してからプログラムCへ渡します。
ソプラノが提示した主題を、アルトが受けて、 さらにその主題をテナーが受け取るように、 この3つのプログラムは振る舞うことになります。
(7)では、 プログラムの振る舞いを音楽の何かにたとえているようです。 でも、残念ながら、 もとの文章よりも比喩の方が理解しにくくなっています。 こんな比喩はないほうがいいですね。
どういう比喩が理解しやすいかを考えるときは、 「読者のことを考える」のがよいでしょう。 読者が知っていること、読者が直感的にイメージできることを、 比喩の題材に使うといいのです。
難解で読みにくい評論には、ときどき理解しがたい比喩が登場します。 でも、あれを真似してはいけません。 「オレはこんなことまで知っているんだぜ」 と知識を誇示するような比喩を使ってはいけないのです。
説明が長くなってしまいました。
それでは、 練習をしてみましょう。
次の文章を読みやすく書き換えてください。
※適切な比喩が見つかればそれを使います。 見つからなければ無理に比喩を使わないようにしましょう。
※ピオミクタンなどの名前は架空のものです。 文章を読みやすくするために情報の加筆が必要なら、 適当に背景を考え出してもかまいません。 読みやすくなればよろしい。
ピオミクタンとサドラミンを同時に使うと、 サドラミンの効果は失われ、ピオミクタンの効果だけが残ります。 サドラミンとグドランをいっしょに使うと、 サドラミンの効果だけが残り、グドランの効果は失われます。 グドランとピオミクタンを合わせて使用したりすると、 ピオミクタンの効果は失われてしまい、グドランの効果だけが残るようになります。 ピオミクタン、サドラミン、グドランを一緒に使うと、 すべての効果が失われてしまいます。
「ジグソーパズル」を比喩に使った文章を書いてください。