結城浩
2004年1月8日
ペンギンちゃんを召喚しましょう。
ペンギン: 「お呼びになりました? 何か声が聞こえてきましたので、顔を出してみましたわ。」
結城: 「最近何か面白いことありましたか? 2004年になったし、面白いページやブログとか。」
ペンギン: 「そうですわね。特別にこれといっては。でも、 「Movable Type」流行ってますわね。 「はてなダイアリー」や 「tDiary」も。」
キツネ: 「なんだなんだ。結城さんの日記に乱入してもいいのか?」
結城: 「おや、キツネくんまで来ちゃったよ。まあ、このまま続けてみようか。どうなるかな」
キツネ: 「ツールは何でもいいんだけどな。みんながわーっとはじめて、またわーっと人がいなくなるんじゃないか?」
ペンギン: 「といいますと? いまの流行は一時的なものだとおっしゃるんですか。キツネさんは?」
キツネ: 「ペンギンのしゃべりは何だかまわりくどいな。おうよ。まあ、もって一年かな。みんな飽きて放置状態になるんだぜ、きっと。」
結城: 「確かにそうかもしれないけれど、ツールをきっかけとして、Webで書く面白さに目覚める人もいるんじゃないかと思うよ。」
ペンギン: 「そうですわね。それにやはり、他の人に見せるためにたくさん書いていると、文章も上達するのではありませんか?」
キツネ: 「話を単純化しすぎてるんじゃないか? そういえば、結城さんの 文章教室っていう企画がありましたよね。まだ完結していませんが。結城さん、企画の途中で放置状態にすることが多いからなあ。」
結城: 「げほげほ。おお、のどに何か詰まったかな。」
キツネ: 「言葉に詰まった? 返答に詰まった?」
ペンギン: 「キツネさん、結城さんを問い詰めないでくださいね。結城さんもお忙しい身なのですから。」
キツネ: 「まあいいや。ところで「はてな」のサービスはすごい広まっているな。日記もそうだし、アンテナもすごいな。」
ペンギン: 「あら。キツネさんもわたくしと同じような感触をもってらっしゃるのですね」
キツネ: 「まあね。でも、数年前にWebに感じた面白みはあまり感じないなあ。当たり前のインフラ、当たり前のメディアになったって感じか。」
ペンギン: 「そうなんでしょうか。いろんなツールやサービスが登場するというのは、何だか楽しくなってきませんか。ブロードバンド時代、って言って盛んに宣伝もしていますし。」
キツネ: 「ぶわーっと盛り上がっている、ように見えるけれど、何だか人工的すぎたり、商業主義的すぎたりして、つまんないんだよね。いろんな人の生の声は聞けるようになった。 コメント機能でコミュニティがどうたら、リンクだWikiだトラックバックだブログだRSSだATOMだアフィリエイトだSEOだ三段シフトだといって、新しいキーワードがどんどん出てくる。」
結城: 「(三段シフトって何だろう…)」
キツネ: 「でもさ。単なる思い付きじゃなく、誰かの二番煎じでもなく、お金が儲かるからでもない、『本当によいコンテンツ』ってそんなにはないよな。」
結城: 「キツネくん、なかなか、深そうな話だね。考えるなら『コンテンツ』っていう表現自体をやめてみたらどうだろうか。」
キツネ: 「ん?」
結城: 「だから、キツネくんがいう『本当によいコンテンツ』というものをもう少し別な表現にしてみたら、何かがわかるかもしれないということなんだけど。」
キツネ: 「どういう感じかっていうとね、結城さん。『自分がほんとうに知りたい情報』のような…いや、違うな。『今日読んで明日は忘れてしまう情報ではない情報』に近いかな」
結城: 「『繰り返して読みたい文章』ってことだろうか。」
ペンギン: 「まだ、わたくしにはよくわかりませんわ。」
キツネ: 「オレにもよくわかってないんだって。」
結城: 「話、ずれるかもしれないけれど、私は、ネットでのやりとりっていうのは、 完成形としてとらえるんじゃなく、1つのトリガー、きっかけのようなものとしてとらえたほうが よいんじゃないか、って思っていますね。日記やブログを書くことも、それで何か完成文書を作るというよりも、 自分がよく考えるきっかけ、調べるきっかけ、という意味合いが強いように思う。」
ペンギン: 「(うなずく)」
キツネ: 「メールのやりとりなども?」
結城: 「うん、そうですね。 製品を生み出そうとしているわけではないし、製品を作ることが主眼なのでもない。 ネットでのやりとりで、自分自身が活性化するというか何というか。」
ペンギン: 「ああ…。いま何だか大切なことを思い出しかけたのですが、心をすりぬけていってしまいましたわ。」
結城: 「だからね。ネット「だけ」になってしまうのはとてももったいないんですよ。きっと。 ネットをトリガーとするけれども、その後で、オフラインになっている自分の時間で、 ゆっくりと物事を考えること。きちんと本を読むこと。鳥の声に耳をすまし、花の薫りを楽しみ、 トマトを味わうこと。それが大事。」
ペンギン: 「トマトでなければなりませんの?」
キツネ: 「おいおい、たとえば、ってことだよ。」
結城: 「そういうオフラインでの生活を忘れてしまうほどネットにひたるのは、 かえってネットの意味を失わせてしまうという…。 ああ、でも、よくわかっていないな。」
ペンギン: 「新鮮なお魚はおいしいですわね。冷凍じゃなく。」
キツネ: 「だから、違うって…。いや、違わないのかな。」