結城浩
1999年10月25日
仕事が終わってから、 古本屋で『シャーロックホームズの冒険』の文庫本を買い、 中華料理店でビールを飲みながら読む。 『冒険』はこれまで何度も何度も読んできたが、やっぱり面白い。 食事を終えて家に帰る途中、昔のことを思い出していた。 たぶん中学の時だったと思うが、 シャーロックホームズの全短編が収められている洋書を買ったことなどをぼんやりと思い出していた。 そして記憶はさらに…
僕が小学生のころから、父は何度も東京に遊びに連れて行ってくれた。 日帰りであわただしいことが多かったけれど、とても楽しかった。 父親のお目当ては秋葉原だった。 アマチュア無線をやっていた父はジャンク屋をひやかし、 無線機の店や工具の店を回って楽しんでいた。
あるとき、もう中学生になってからだろうか、 父は僕を「本屋街に連れていってやる」と言って神田に連れていってくれた。 何もわからぬ子どもだった僕は、林立する古本屋に目を丸くした。 と、父はその中で「タトル商会」という洋書屋さんに僕を連れていった。 そこで私は何冊か洋書を買った。 その中の一冊がそのシャーロックホームズの本だった。 そのほかに、 マーチン・ガードナーの注釈付の『アリス』 (Annotated Alice) もそこで買ったかもしれない(このアリスは以前長男に日本語に変換しながら読んで聞かせていた)。
僕は田舎に住んでいて、 情報にはほんとにうとかった(何しろ近所には小さな小さな本屋が二軒きりなのだ) でも、洋書を手にしていると何だか夢が広がるような気がした。 中学生の語彙ではろくに読めやしないのだけれど、 ちょっぴり大人になったような、ちょっぴり世界につながったような、 そんな気がしたものである。
その他には、 高校の時に『赤毛のアン』をペンギンブックス(パフィンだったか?)で買ったのを覚えている。 この『アン』は大学受験のときの僕のお守り代わりだった。
…私はもう東京に住んで18年くらいになる。 人生の半分くらいは東京に住んでいたことになる。 でもいまだに、神田の本屋街を訪れたり、いまもある「タトル商会」の前を通ったりすると、 不思議な郷愁を感じるのだ。