『無限を求めて — エッシャー、自作を語る』

結城浩

2004年11月7日

エッシャーの、数学的で不思議な版画をご存知の方は多いでしょう。 でも、エッシャーという人自身がどんなことを考えていたのかを知っている人は少ないかもしれません。 今日ご紹介する『無限を求めて—エッシャー、自作を語る』という本を読むと、 エッシャーの「全身全霊を版画に打ち込んでいる職人」という姿が浮かび上がってきます。

冒頭の、エッシャーが息子に宛てて書かれた手紙から少し引用しましょう。

やれやれ、もっとうまくデッサンできるように、勉強しておくべきだったと思います。 うまく仕上げようとするには、なんてたいへんな努力と辛抱が必要なんでしょう。 (中略) 万事につけて、才能なんぞが役立つというのはたわごとです。

エッシャーは、ときには創世記を引き合いに出しつつ(p.26)、 またあるときは哲学的な思索をつむぎながら、 自作および自分の活動について語ります。

版画の中で私は、私たちが美しく秩序のある世界に住んでおり、 ときにはそう見えても、決して無形の混沌のなかに住んでいるのではないということを 証明しようと努めてきました。(p.34)

あの平面や空間を埋め尽くす版画をなぜ作りたいと思ったのか、 そもそもなぜ版画をしようと思ったのか、 作品を作るときに考えていたことなどが、 エッシャー自身の言葉で語られます。

この本を読むと、作品に対する真面目で謙虚なエッシャーの姿に心打たれ、 背筋をたださずにはいられません。 時間をかけて、ゆっくりと味わいながらページをめくりたくなる、 大人向けの良い本だと思います。