結城浩
2004年2月29日
村上龍の『13歳のハローワーク』という本を読んでいる。 ベストセラーになったので読んだ人も多いと思う。 この本は「子供」が将来の職業を考えるときのガイドの一種なのだが、 単なる職業紹介にとどまっていない。 「働く」ということは単に「どこかの会社に勤める」ことではないのだということを気づかせてくれ、 さらに「よく生きる」というのはどういうことなのかを考えさせられる本。 13歳に限らず、中高生、大学生、あるいは大人でも読んでよいと思う。
この本は「スポーツをするのが好き」「心のことを考えるのが好き」など、 自分が「好き」なことを基準におき、そういう人に向いている職業が紹介してある。 「職業」を紹介してあるのであって、「会社」を紹介しているのではないことに注意。 そして職業ごとに短い解説が書かれている。
今日の午後は「画家」のところを読んでいた。 少し引用してみよう。
(どうすれば画壇に入れるかという記述がこの前にある) しかし、絵画というアートの本質と、画壇とは何の関係もない。 画家にとって、もっとも大切なことは、絵を描き続けることである。 (中略)アルバイトをしながら、親や恋人の支援を受けながら、何でもいいから、 とにかく描き続けることだ。 絵が売れても、売れなくても、絵画表現の意欲と喜びとともに、 何年も何十年も絵を描き続けることができれば、 その人は画家である。
ところで、この本の中ではプログラマについての扱いはそれほど大きくない。 ITというくくりの中でさらっと触れられてはいるものの、 その面白みと苦労についてはあまり述べられていない。 それだけ変化が激しい職業なのかもしれないし、 単に歴史がない職業だからなのかもしれない。
そうだ、文章を書くのが好き、というのはどういう扱いになっているだろうか。 作家/詩人/俳人/ゲームプランナー/ジャーナリスト/ライター/コピーライター/新聞記者/評論家/出版業界/編集者/校正者/… このうち、ライターを引用してみよう。
(多数の出版物があるという記述の後) だから一般に思われているより、フリーランスのライターの数はかなり多い。参入するのが非常に簡単なのもこの職業の特徴。 多くの仕事があり、しかも専門性やノウハウをあまり必要としない仕事が多いからで、その意味ではフリーターに似ているかもしれない。 (以下略)
…ふうむ。 私の考える「ライター」のイメージとはずいぶん違うなあ…。
アマゾンの読者書評の中にもあるけれど、 この本の内容を「鵜呑み」にするのは危険。 この本を参考にし「いろんな職業があるんだ」「大きな会社に勤めるだけが人生ではないのだ」と考えるのはよいけれど、 この本だけを頼りに自分の進路を決めるのはよくない。 著者の村上龍によるフィルタリングとバイアスがかかっており、 また職業の記述にも、不正確な部分が多い可能性がある。 当然のことですけれど、念のため補足しておきます。
yomoyomoさんから、 ITProの「SE/プログラマは「13歳」に夢を与えない?」という記事を紹介していただきました。