結城浩
2002年4月8日
数日前の話だけれど、 新しく執筆する本に関して、編集部と打ち合わせをした。 本を執筆することに興味がある人のために、 私のやり方について少し書いておく。 時間がくるまで、思いつくまま書くので、まとまらないけれど、ご容赦。
本を出版するといってもいろんな形態がある。 連載記事を本にまとめる場合もあるし、 編集部から依頼を受けて書く場合もあるし、 自分から企画を出して書く場合もある。 どちらの場合でも、編集部の意向や出版計画との兼ね合いというものが生じる。 そういう意向と独立に本を出したい場合には(私はやったことはないけれど)自費出版という手もある。
雑誌ですでに連載記事を持っていた場合には、 連載記事をまとめて1冊の書籍にする、というのはとても自然な発想だ。 連載記事に書いた記事が素材としてあるから、 1冊にまとめるまでの計画が立てやすい。 しかし注意しなくてはいけないのは、 連載記事をただ順番に章にしても、きちんとした本にはならない、 ということだ。特にコンピュータの世界は時間の流れが速いから、 1年たった記事の内容は古くなっている可能性が高い。 これをup-to-dateにしなければならない。 それから、雑誌の連載記事というのは1つ1つの記事の独立性が高いものだから、 一冊にまとめたときに散漫な印象を与えてしまうことがある。 そのでこぼこをきちんと整える必要がある。
編集部から依頼を受けて書く場合には、 その企画の内容を自分で書けるかどうか吟味しなければならない。 技術的に可能か、時間的に可能か、などなど。 それから(私はとてもこれが大事だと思うのだが) その企画の本を自分が「書きたいか」というのも大切なことだ。 ただ機械的に、やってきた企画を本にまとめていく、 という仕事をしたいならば別だけれど。 自分の中に何らかの大きな流れのようなものがあって、 できるだけ、そこに結びつくような企画がいいのではないか、 と私は思っている。 抽象的でごめんなさい。
自分から企画を出して書く場合には、 自分の興味が持てて、しかも技術的に可能な内容を出すから、 ハッピー度は高くなる可能性がある。 でも今度は、編集部にOKしてもらわなければならないだろう。 そのためには、作戦が必要だ。
おっと、時間だ。ごめんなさい。続きはまたいつか。
(ここで日付が変わる)
昨日の続きの話。
というわけで、自分の企画を通すためには作戦が必要だ。 一言でその作戦をいうなら「相手をよく知り、自分をよく知り、策略をめぐらさない」ということだ。 でもこれではよくわからないから、もう少し具体的に書こう。
自分の企画がある。それを出版してもらうにはどうするか、という話だった。 これは出版に限らず、よくある話だ。自分の企画、自分の考えを、 家族・同僚・上司・…に伝え、何らかの承認をもらうという局面だ。
相手にいうことをきかせる魔法の呪文は存在しない。 私だってそんな呪文は知らない。100%うまくいく方法など知らない。 でも、比較的うまくやる方法は知っている。こうする。
まず、相手の承認が必要なのだから、自分の気持ちを忘れ、相手の気持ちになってみる。 相手は、いま、どんなことを考えているだろうか。 何をしたいと思い、 何をしたくないと思い、どういう話はうれしく思い、 どういう話にいやな顔をするだろうか、 を考えてみる。 でも、間違えないでほしいのは、 「相手を喜ばせる話を持っていけばいいんだな」と短絡的に考えてはいけないということだ。 大事なのは、相手の気持ちにまずなってみる、ということ。
そうすると、 「私は相手のことを何も知らないのだ」ということにすぐ気がつく。 相手がどこで何を考えているか、いま気にかかっていることが何か、 を知らないことに気がつく。
(さて、そこに気がついた後、どうするかは、自分で考える部分なので省略)
で、それを踏まえた上で「自分は何をどうしたいのだろう」と考える。 何をしたいか、どういうことをしたいか、 そのしたいことでは「何が最重要ポイントなのか」をよく考える。 それは自分にとっての話でかまわない。 きちんと優先順位を考える。
そこまで考えてくると、おのずから「作戦」は見えてくる。 いつ、何をどういう順序で、どういう手段で相手に伝えるべきか、 どうすればもっとも自分の考えを効果的に伝えられるかがわかってくるはずだ。 その方法は画一的ではない。なぜなら、相手は一人一人違う人間だからだ。 でもとっぴなことを考える必要もない。なぜなら、相手は自分と同じ人間だからだ。 姑息な「策略」はあまりめぐらさないほうが無難だ。 それは相手の立場に自分を置いてみればすぐにわかる。
どのくらい効果的にプレゼンテーションできるかどうかは、 自分の想像力にかかってくるだろう。でもそれは(いうなれば、単なる)技術の問題だ。 自分の人格とは独立だ。だから、プレゼンテーションがうまくいかなくっても、 落ち込むには及ばない。落ち着いて振り返り、何がまずかったのかをよく考えればよいだけのことだ。
ネガティブな思考に陥りがちな人は、 そこからの脱却方法を自分なりに考えておいたほうがいい。 自分から企画を提案して仕事を進めていくときには、 フットワークを軽くしておいたほうがいいからだ。 何か障害が起きるたびに「私はいつだって駄目なんだよなあ」と落ち込んでいたら、 時間がもったいない。もちろん、そういう繊細さは1つの個性だし、大切なものだ。 いつもガハハと笑っていればいいというものでもないだろう。 でも、ちょっとした障害(人的な障害、経済的な障害、技術的な障害)に対しては、 チャキっと割り切って「それがどうした」と進む大胆さも必要だろう。
と書くと 「ああ、私はいつもネガティブで駄目なんだ」 と再帰的なネガティブ思考に入る人もいるかもしれない。 これはスタックオーバーフローを起こすかもしれないので、注意しよう。 そんな状態に落ち込んだ自分をポーンと笑い飛ばして、 にっこり微笑んで、次に進んでいこう。 人生いろんなことがあるけれど、神さまがいらっしゃるので、大丈夫。
思いつくまま書いてみたけれど、 あまり他の人の役には立ちそうにないな。
そういえば、 こういう薀蓄を人生にからめつつ話すっていうのは、 むちゃくちゃオヤジっぽいですね。
まあ、いいけど。