夜、子供たちの布団にもぐりこんで

結城浩

2005年4月15日

夜遅く帰ると、家内はぐっすり眠っていた。 私は、つけっぱなしになっていた枕もとの電気を消す。

子供部屋のほうからくすくす声が聞こえてきた。 のぞいてみると、長男と次男が布団に入ってこちらを見上げ、笑っている。 「おかえりなさい」「おかえりなさい」と二人が言う。 「ただいま」と私が言う。

私は次男の布団にもぐりこむ。二人は私の顔を見てにこにこしている。 私は「あなたたち、いい子だねえ。お父さんはあなたたちが大好きだよ」と言う。

「ねえ、何かお話して」と長男が言う。

「どんな話がいいかな」と私が言うと、次男が「世界で一番おもしろい話がいい」と言う。

息子たちにこんな風に言われたときに「よしっ」と応えるのは父親の醍醐味である。 さっそく「みずうみのそばに一人で住んでいた漁師のおはなし」をはじめる。 お話を作りながら話すのだ。

「じゃ、お話をはじめます。まず二人とも目をつぶってね。むかしむかしあるところに漁師がいました。 大きなみずうみのほとりにある、小さな小屋に一人で住んでいました…」

私も目をつむり、心にうつる情景を、ひとつひとつていねいに言葉にしていく。 お話がどちらの方向に進むのかは、私にもわからない。 私の心の目に見えているものを、子供たちの心にそのまま浮かばせるため、 私は物語をつむいでいく。ゆっくりと、しずかな声で。

やがて、子供たちの寝息が聞こえてくる。 私は「…と漁師は思ったのでした。つづく」と話を終える。 目を開くと、子供たちは二人とも幸せそうに眠っている。

私はそっと子供部屋の扉を閉め、食卓の上にノートパソコンを広げて、日記を書く。