質問の仕方を工夫して著者をうまく利用する

結城浩

2000年1月30日

著書に対する質問のメールは毎日多数やってくる。 それはもちろん感謝なことなのですが、 読者の側がほんのちょっとした工夫をしていただけると、 もっと確実なアドバイスができるのに、と残念な場合が多くあります。 その「ほんのちょっとした工夫」というのは単純なことです。

  • あなたの意図だけではなく、入力したコマンドそのものを書いてください。
  • あなたの解釈だけではなく、表示されたメッセージそのものを書いてください。

解決の助けに ならない 情報の例を以下に示します。

  • 「何度も試しましたがうまくいきません」
  • 「いろいろやりましたが動きません」
  • 「何だか変です」
  • 「表示がおかしいです」
  • 「確かめましたが間違っていません」

以上の情報がきたときには、以下のように返事することになります。

  • 「具体的に何を試したのですか」
  • 「何をやったのですか、『動かない』とは表示が出ないのですか、エラーメッセージが出るのですか、どんなエラーメッセージですか」
  • 「『変』とはどういう意味ですか。何と表示されましたか」
  • 「『おかしい』とはどういう意味ですか。文字化けをしているのですか、エラーメッセージが出るのですか、どんなエラーメッセージですか」
  • 「『確かめた』とはどのようなコマンドを実行したのですか、何と表示されましたか」

これではメールの一往復が無駄ですよね。 上記の返事に対して、さらに読者から 「ええ、何度も試しました。 おかしなエラーメッセージばかりが表示されます。 絶対に間違ってないのに、もう困ってしまいます。どうにも変なのです」 という返事が来たりすると、 私も困ってしまいます(腹が立つことはありませんが)。 もどかしさが伝わるかしらん。

正しく自分の状況を解釈説明できる人は、 ほとんど自力で問題解決できるのです。 他の人の助けを借りる場合には、 意図や解釈だけではなく(それらも大事ですけれど)、 事実(コマンドやメッセージ)を提示するのがよい方法だと思います。

実際、あなたのすぐそばに立っていて、 あなたのやることを見、表示されているメッセージを見ていたら、 すぐに解決する問題がほとんどでしょう(解決できなくても、何を次に試せばよいかがわかる)。 ですからうまい質問は「 自分が見ているものを相手にも見せてしまう 」ように書くことですね。 それでも解決できなかったら、そばに立っていても解決できない問題だったわけなのです。

状況の説明が具体的であればあるほど、事実の記述に近ければ近いほど(例えば、 エラーメッセージはタイプするのではなくコピー&ペーストする)、 解答は具体的なものになります。 まあ、でも今書きながら思ったんですが、 こういうのも「慣れ」かもしれませんね。

誤解しないでいただきたいのは、 私は読者を批判しているわけではない、ということです。 問題が解決するのは両者にとってハッピーなこと。 もっとうまく著者を「利用」してほしいなと思うのです。

いい方法だと私が思うのは、 メールを送る前に、1度それを 自分で読み返してみること です。 もしも自分がこのメールを受け取ったら、 問題を解決できるだろうかと自問してみるのです。 これは、とても効きます。

もちろん、私の方もそれをやっています。 「この返事を送ったら、読者は問題を解決するだろうか」ってね。

実は、この「メールを送る前に読み返す」というのは「メールを書く心がけ」の1つですね。

ところで、読者からの質問メールの中には、 こちらが「ああ、何と素晴らしい文章」と思うようなお手本メールもあったりします。 要点が整理され、質問が明記され、しかも愛情と思いやりに満ちていて、 読むとはっと目が醒めるような文章。 問題解決することで、こちらの知見も深まり勉強になるようなメール。 そういうメールが来ることもあります。 そんなときは、つい返事を早く出したくなるのですが、 そういうメールに限って最後に 「お忙しいでしょうから、お返事はお時間があるときにでも」とか、 「以上はご参考までにお知らせすることです。ご多忙でしょうからお返事は結構です」などと書かれていたりする。 うーむ。 私もこんな素晴らしいメールを書けるようになりたいものです。