結城浩
2005年3月2日
傾いた時計クイズ
ここにアナログ式の掛け時計があります。形は完全な円です。 この時計には長針と短針はありますが、文字盤は真っ白で数字や目盛りは描かれていません。 時計の裏は全面シール状になっていて、どの角度を上にしても壁に掛けることができるとします。
長針と短針が「正しく時計を設置していたらありえない位置関係」になっていたら、 「この時計は傾いている」と判断できます。
(1) アリスは、この時計を30度左に傾けて(つまり本来の1時の短針の位置を上にして)壁に掛けました。 ボブがこの時計を見たとき「時計が傾いているかどうかを判断できない時刻」は一日のうちに何回ありますか。
(2) 傾ける角度をT度として、(1)を一般的に解いてください。
※注意
多数の解答をいただきましたが、
その中から一部をご紹介いたします。
みなさん、ご解答ありがとうございます。
私の解答よりもみなさんの解答のほうがわかりやすいですね。 (^_^;
まず、正しい時計の長針と短針の角度について考えます。
正しい時計で、垂直上方向と長針のなす角度をL度、 短針のなす角度をS度とします。 たとえば0時はL=0, S=0です。 3時はL=0, S=90で、6時半ならL=180, S=195です。 角度には360度の整数倍を加えてもかまいません。
さて、長針が短針の12倍の速度で回転することから、 正しい時計に見えるための条件は、
L = 12S + 360n (nは整数) ……[1]
です。
次に、傾けたときの「見かけの角度」について考えます。
T度だけ時計を左に傾けたときの長針と短針の見かけの角度をL'度、S'度とすると、
L' = L - T および S' = S - T ……[2]
が成り立ちます。
T度だけ時計を左に傾けた時計が正しい時計に見えるための条件は、[1]のLとSをL'とS'にそれぞれ置き換えて、
L' = 12S' + 360n' (n'は整数) ……[3]
です。式[1]と式[2]を使って、式[3]からL'とS'を消去し、N=n-n'とおいて、 次の式を得ます。
T = 360N ÷ 11 (Nは整数) ……[4]
[4]が成り立つとき、時計はいつでも正しい時計のように見えます。 それ以外のときには、いつでも傾いた時計のように見えます。
(1)の解答:T=30のときには[4]を満たす整数Nは存在しないので、0回(常に傾いて見える)
(2)の解答:TがT = 360N ÷ 11(Nは整数)を満たすときには常に正しく見える。それ以外はいつでも傾いて見える。
ちなみに、0≦T<360で考えて小数第二位まで計算すると、 時計が正しく見える角度は 0.00, 32.73, 65.45, 98.18, 130.91, 163.64, 196.36, 229.09, 261.82, 294.55, 327.27 の11通りあります。この11通りの角度は、ちょうど長針と短針がぴったり重なる11箇所に対応しています。
いつも楽しく読ませて頂いてます。
さて、傾いた時計クイズ (2005年2月26日)についてです。
x軸方向に長針の偏角、y軸方向に短針の偏角をとり xy 平面に、「その時計の長針・短針のとりうる状態の軌道」を描くことを考えて、 「ただしい向きのものの軌道」と「ただしいかどうかわからないものの軌道」 を比較してみるとよいように思います。
答案
(1)0回
(2)傾きが 360/11度の整数倍のときは常に判別できず、そうでないときは、常に判別できる
なんか勘違いしてそうな気もしますが。。。
(結城:ええと、どうなるかな…。なるほど、面白いですね。床屋さんの前にあるねじねじ棒みたい。ご本人からご指摘をいただいて、解答を少し修正しました)
http://blog.livedoor.jp/fukuchan2212/archives/2005-03.html
(結城:この解答は、リファラから逆にたどって発見しました)
はじめまして。いつも読ませていただいています。勉強になることが多くてほれぼれします。
「傾いた時計」クイズ、私なりに解いてみました。合っているといいのですが・・・。 時計の両針はいつも同じスピードで動くので、傾いた時計がある時刻で「傾いているかどうか判断できない」場合、 次の瞬間も「傾いているかどうか判断できない」状態となります。 時計は12時間で一周し同じ状態に戻るので、 傾いていると判断できる状態から回っている途中で「傾いているかどうか判断できない」状態になることはありません。 つまり、ある時刻で傾いていることが判らなければ、ずーっと傾いていることに気付かず、 ある時刻で「傾いている」と判る場合は、 ずーっと傾いているとしか見えないことになります。(なので、(1)は常に傾いているとしか見えない)
(2)の問題は「T度傾いた時計は傾いているように見えるか?見えないか?」という問題に置き換えられ、 これを解くためにはある時刻一つを取ってみればいいわけです。 例えば12時のときに正しい時計が表すように見えれば、傾いているように見えません。 12時のように長針と短針が重なっているのは正しい時計では360° * n / 11(nは整数)の角度で起こります。 つまり、時計が 360° * n / 11 だけ傾いているとき、常に「傾いているかどうか判断できない」状態となり、 それ以外のときは常に「傾いている」と判ることになります。
(結城:ほれぼれされてしまいましたが、結城は、みなさんからの返信のほうにほれぼれしますね)
大変魅力的な問題だったのでちょっと考えてみました.
(2) から回答します.
傾ける角度 T に関わらず,短針・長針の回転速度は変わらない.よって,
(a) あるひとつの時刻で傾いているかどうかが判断できない場合, その置き方をしている限りは他のいずれの時刻でも判断できない.
逆に,
(b) あるひとつの時刻で判断できる場合, 他に判断できない時刻がひとつでも存在すると仮定すると (a) に矛盾するので,その置き方をしている 限りは他のいずれの時刻でも判断できる.
よって任意の角度 T について,何か分かりやすい時刻をひとつ考えれば十分である. 短針が丁度上向きになる時刻を考える.この時刻に長針も上向きになる場合は, すなわちある時刻で短針と長針が丁度重なるような位置を上にして時計を置いた場合は, 時刻に関わらず判断できない. これを満たす角度 T [°] は,
T = 30h + T/12 (h: 整数)
を解いて T = 360h/11.それ以外の置き方の場合は,時刻に関わらず判断できる.
答え: T = 360h/11 (h: 整数) のとき全時刻,それ以外のとき 0 回.
(1) は,(2) より直ちに 0 回.
(結城:かがみさんは、結城のいささか間抜けな質問メールにも丁寧に答えてくださいました。ありがとうございます)
結城さん,こんにちは. 2月26日の日記の「傾いた時計クイズ」の答えってわけでもないんですが,ちょっと書いてみました. http://www.misi.jp/tdiary/?date=20050301#p01
(結城:そうか、スーパーな人にとっては、時計の針は短針だけで十分だったのですね)