結城浩
2000年11月6日
2000年11月3日の青空文庫の「そらもよう」で、 ストールマンの 『自由か著作権か?』が紹介された。 そこで青空文庫の富田さんがフリーソフトウェアについて簡単に紹介していた。 その文章を読んで、少し物足りないものを感じたので、 結城は富田さん個人に以下のようなメールを書いた。以下、結城のメール全文掲載。
富田様: 結城です。いつもお世話になっています。 11月3日のフリーソフトウェア運動の紹介には 物足りないものを感じましたので一言。 というのは一番最初に出てきた言葉が、 > 誰もが対価なしに使える。 という部分だったからです。 ストールマンの主張する「フリー」とは「無料」ではなく「自由」なのだ、 というのは非常に重要なポイントなのです。 フリーソフトウェア運動では、お金の動きは大きな問題ではないのです。 その証拠に、今回取り上げていただいた 「自由か著作権か?」の中でも、以下のように書かれています。 > since copyright > restricted only publication, not the things a reader could do. If it > raised the price of a book a small amount, that was only > money. > なぜなら、著作権は出版だけを制限しており、 > 読者ができることに制限を設けているのではなかったからです。 > もしも、著作権が本の価格を少し上げたのなら、 > それは金銭の問題だけでした。 だからGNU/LinuxのCDは「販売されて」いてもいいのです。 もう一度繰り返していいますと、 【フリーソフトのフリーとは「無料」ではなく「自由」です】 僭越ながら、今後のためメールさせていただきました。 失礼の段、お許しください。 ---- 結城浩https://www.hyuki.com/ Preach the word; be instant in season, out of season; (II Timothy 4:2)
結城は「今後の参考になれば」というほどの感覚でメールしたのだが、 その後、富田さんからはとても丁寧な返事をいただき、 2000年11月6日の「そらもよう」ではこのメールに触れてくださり、 訂正する意図の文章が掲載されていた。 11月3日の記述そのものは「悪い見本」として残されるとのこと。 富田さんの真摯で誠実な態度には本当に頭が下がる思いがする。
青空文庫は現在1000冊を越える蔵書があり、 多くの人々(青空工作員たち)によって活動が支えられている。 各人の本やテキストを愛する気持ちが活動の源泉になっているのだろうし、 青空文庫のような活動を一人の人の功績にしてはいけないと思うが、 富田さんの人柄や態度が、 大きなリーダーシップになっているのではないか、 と結城は考えている。
日記でも何度も触れているが、 富田さんからのメールはいつも、 お手本としたいようなメールとなっている。 情報に過不足なく、しかも冷たい感じを受けない。 活動のあり方、 意思決定の仕方についても勉強になることが多い。
結城はひょんなことから山形浩生さんの プロジェクト杉田玄白に関わり、 翻訳作品経由で青空文庫にもちょっぴり関わることになった。 その経験から得ているものというのは、 お金ではなかなか買えないもののように思う。 私のやっている翻訳は素人作品だとは思うが、 それでも「これが私の翻訳です」といってネットで公開してしまえば、 いろんな人とのつながりが生まれ始め、 自分も想像しなかったような面白い世界が広がっていくものだなあ、 とつくづく思う。
これを読んでいるあなたもぜひ、 あなたの作品をネットで公開しましょう。 きっと面白いことが始まりますよ! (そして翻訳したら、プロジェクト杉田玄白へぜひ参加くださいな)