代理戦争と仮想敵国

結城浩

2000年2月14日

代理戦争。

村上春樹の『ファミリーアフェア』に登場する。 スパゲティの味やレストランのサービスについて妹と口論する主人公。 でも実際の議論(妹からの批判)はスパゲティのことではない。 本当は別の批判があるのだが、それをスパゲティの話題の上で行なっている。 代理戦争のようなもの。

仮想敵国。

これは私が名前をつけたもの。 本当は自分の中に対決すべき問題がある。 あるいは相手と話し合わなければならない問題がある。 でも、それに向き合うのがつらいために、仮想敵国を作る。 それのせいにしていれば安心だから。それの文句を言っていれば、相手と議論しなくてすむから。 そういう「あて馬」みたいなもの、スケープゴートみたいなものだ。 「あいつっていつも○○なんだよね」「そうそう」という文脈でよく登場する。 仮想敵国が必要なときもあるけれど、 本当の問題に真剣に向かわなければならないときもある。

人を批判したり、文句をいったり、裁いたりするのにはあまり知性は必要ない。 それは本当に簡単なことだ。 人のあら捜しほど楽なことはない。すぐできる、誰にでもできる、いつでもできる。 人のよいところを正しく見つけるのは難しい。 それを正しく伝えるのはもっと難しい。 愛をもって丸ごと相手を受け入れるのは一番難しい。 人間の力では不可能である。