結城浩
「数学ガール」シリーズの登場人物によるトークイベントです。
ここでは数学は出てきません。気楽にお楽しみください。
僕「ねえ、ミルカさん」
ミルカ「何?」
僕「緊張しない?」
ミルカ「何が?」
僕「だって、今回、僕たちだけでトークしなくちゃいけないんだよ」
ミルカ「いつも通りでいいと結城先生はおっしゃっていたじゃない」
僕「うーん…緊張するなあ」
ミルカ「そう? それより、テトラはどうなっているの」
僕「あ、さっき連絡があったよ。目覚ましの時間を間違えたらしくていまあわててこっちに向かっている途中」
ミルカ「ふうん…いつも通りね。いいじゃない」
僕「いいか?」
テトラ「す、す、すみませぇん! タイマーセットを…はぁ、はぁ…間違えて…ここに…くるっ…来るまで」
僕「いいから、状況は分かっているから、しゃべらなくていいよ。あと一分で本番」
テトラ「…もうっ、あたしっ、緊張して…」
僕「だからいいって。もうハガキも用意されているし、はじめは僕が話すから」
ミルカ「時間よ」
ナレーション(みなさん、こんにちはネットラジオ、マセマトークの時間です。今日は、結城浩氏の数学読み物『数学ガール』の登場人物三人をスタジオにお招きしています。みなさんからのハガキを読みながら、三人に自由にお話していただきましょう…)
僕「(せきばらい)ネットラジオをお聞きのみなさん、こんにちは。僕たちは結城先生の本『数学ガール』に登場する高校生です。どうぞよろしく。(…じゃ、はい、ミルカさん次)」
ミルカ「みなさん、こんにちは。ミルカです」
テトラ「み、みなさん、私はテトラです。よろしくお願いします(ゴッ)…痛っ!」
僕「(テトラちゃん、スタジオせまいんだからお辞儀しなくて良いって)ええと、今日は、みなさんからいただいたハガキを順番に読みながら、書籍『数学ガール』の紹介をしたいと思います」
テトラ「よろしくお願いしまーす」
僕「では最初のハガキは…○○さんから」
数学ガールはどんなお話なんですか?
僕「数学が得意な女の子と、数学が苦手な女の子に、真面目な男の子がふりまわされるお話です」
テトラ「あたし、先輩のことふりまわしてなんかいません!」
ミルカ「挿話的に数学が語られる、シリアスな青春ドラマです」
僕「ちょっと待った。挿話にしては数学の割合が高いと思うけれど…」
ミルカ「挿話じゃだめなら総和でもいいよ」
僕「意味分からないし!」
テトラ「楽しいラブコメに彩られた、数学の旅物語です」
ミルカ「あれってラブコメだったの?」
わたしは数学が苦手です。わたしにも読めるでしょうか?
テトラ「あ、大丈夫です。あたしも、数学苦手なんです。でも、先輩から定義の大切さとか、数式の読み方を教えていただいてから、ちょっとずつ数学が好きになって…」
僕「この本の大きな流れとしては、はじめのほうは易しめで、次第に難しくなります。でもいちおう物語としては最後まで読めるようになっている…はずです」
ミルカ「難易度は一本調子じゃないと思うな」
僕「そうだね。ちょっと難しくなったり、易しくなったり。最後の方はかなり難しくなるかな」
ミルカ「同じテーマが形を変えて繰り返し出てくるというポイントを言わなければ」
僕「そうかそうか、そうだね。そういえば、数式はわからないけれど楽しく読みましたという方もたくさんいらっしゃるようです」
テトラ「隠されているテーマがたくさんあるんですよね。物語と数学が重層的に絡んでいます」
僕「そうだっけ?」
テトラ「先輩が気づいていないだけです…(鈍いんですから、もう)」
俺は数学が得意だよ。ふふん、俺には易しすぎてつまらないかな?
僕「(こういうハガキ、ちょっとムッとくるよね)」
テトラ「(先輩駄目ですよ。全部放送されてるんですよ…)」
ミルカ「超幾何級数の定義をそらで書ける人にはつまらないかもしれません」
テトラ「(先輩、超幾何級数って何ですか?)」
僕「(僕も知らない。あとで調べよう)」
ミルカ「でも、数学が得意な方でも、退屈はなさらないと思いますよ。数学的な議論の途中には軽いギャップが何カ所か入っています。ぜひそこを埋めていただけるとうれしいです」
テトラ「(先輩、ですますで話しているときのミルカさんってちょっと恐くありませんか)」
僕「(いや、いつでも恐いよ)」
ミルカさんはツンデレなんですか?
ミルカ「そういうことを書いてくるのは誰? ええと、東京都…」
僕「うわっ、ミルカさん、住所読んじゃ駄目だって! 個人情報保護の観点から——」
ミルカ「お答えします。それはツンデレの定義によります」
僕「(すくなくともツンではあるなあ)」
ミルカ「何?」
僕「な、なんでもありません。では次のハガキ」
テトラちゃんはドジっ子なんですか?
テトラ「え、あたし…ですか。うーん、そうですね、ちょっとドジなところもある…かな」
僕「ちょっと?」
ミルカ「ところもある?」
テトラ「ふえーん」
『数学ガール』は、受験に役立ちますか?
僕「(うわ、来たよ。この質問。どうしよう)」
テトラ「(受験勉強用の本じゃないですよねえ)」
ミルカ「《数学を好きになること》が受験に役立つなら、『数学ガール』は受験に役立ちます」
数学は厳粛な学問であり、ふざけた話にするとはけしからん
僕「(小声:何か難しそうな人からのハガキだよ。けしからん、ってそもそも質問じゃないし)」
ミルカ「そういう方は読まなくてよいです。はい、次のハガキ」
僕「うわっ、ミルカさん駄目だってそんなこと言っちゃ。これ、結城先生から頼まれている販促企画なんだから…」
テトラ「…え、えっと。確かに数学は厳粛な学問だと思います。それから数学をなさっている方はみなさん真剣です。 でも…でも、あたしたちだって真剣に数学に取り組んでいます。 …ええ、問題にも、物語にも、あたしたちは決して手を抜かないで真剣に取り組んでいます。 真剣に、厳粛な気持ちで取り組んでいるからこそ、問題が解けたときに大きな喜びがあると思っています。 そして…そんなときには思わず笑顔になりますよね? わたしたちは一生懸命、物語と問題に取り組みました。 この本をお読みになる方々と、その真剣さ——そして笑顔を共有できたらよいなあって思っています…(涙声)」
僕「テトラちゃん…」
テトラ「(涙)あ、ご、ごめんなさい。何だか一人で興奮しちゃって…。 でも、真剣になることと、楽しむことが同居したっていいのにっ!…って思っちゃうんです」
僕「ええと、確かに、この本の中には、ラノベ…ライトノベル風な表現も出てきますけれど、 数学的な部分や物語の部分で、おふざけをやっている部分はありません。 このハガキをお書きになったのは、 達筆なので、もしかしたらお年を召した方かもしれません。 学校の先生でしょうか。 もし、学校の先生なら、生徒の気持ちも考えてください。 数学が大事。それはわかります。 勉強が大事。それもわかります。 それなら、ぜひ、そのおもしろさを僕たちに教えてください。 お願いします 」
ミルカ「おや、きみは学校に期待しないんじゃなかった?」
僕「 期待してないわけじゃないけど…。基本的に勉強は自分でするものだとは思う。 学校での勉強はきっかけに過ぎない。 でも、それでも、先生にはいろんな意味で期待してるよ。 生徒に長時間接する機会が与えられている先生に、数学の面白さを語ってもらうこととか…。 生徒の興味や関心と、数学の本当の面白さをうまく結びつけるのが先生の仕事だと思うんだよ。 たとえばさ—— 」
ミルカ「ふうん……。しかし、そろそろ饒舌スイッチオフ。これは販促企画なんだから」
ぼくは、テトラちゃんがすきです。 テトラちゃんは、いつもがんばってかわいいのでだいすきです。 これからも、べんきょうがんばってください
僕「テトラちゃんの大ファンからのハガキでした」
テトラ「あ、ありがとうございます! ち、ちょっとはずかしいですね…」
ミルカ「ライバル登場かな」
僕「ライバル?」
高度な内容の数学が読みやすくまとめられている。 よく推敲されていて、好感が持てた。 習熟度に応じて深読みができる構造にも感心した。 数学教授法としても得るところが多い。
ミルカ「この方は教師」
僕「数学教授法って…」
ミルカ「数学の教え方という意味じゃないかな」
テトラ「あ! きっと、あたしたちの対話のような形で数学を教えるという意味ですよ!」
僕「なるほど」
テトラ「いつか、全国の高校におでかけして、実演するというのもアリでしょうか…」
ミルカ「掛け合い数学漫才?」
(エンディングの曲がフェードイン)
僕「あ、終わりかな?…そろそろ時間のようですね。お聞きいただきありがとうございました」
ミルカ「結構おもしろかったな」
テトラ「…ということで、みなさん『数学ガール』読んでくださいね♪」
僕「ふう…終わった終わった。緊張したなあ」
テトラ「先輩、ミルカさん、おつかれさま」
ミルカ「はい、これで、ひと仕事、おしまい」
ここに登場する三人の高校生は、青春数学物語『数学ガール』のメイン登場人物です (第二作『数学ガール/フェルマーの最終定理』から登場する中学生のユーリは今回お休み)。
彼女たちの活躍は、以下の書籍からどうぞ!