ベスタバシャ

結城浩

醜い鳥、ベスタバシャ。
翼は汚れた紫。
左は折れていて、右は曲がってて、
空を飛べないベスタバシャ。

嫌われ者のベスタバシャ。
雀をいじめ、鳩をいじめ、鷲と鷹から逃げ回る。
両親を知らず、仲間もいない、
一人ぼっちのベスタバシャ。

生きるすべなく夢もなく、
皆から嫌われ、うとまれて、
世をうらみ、親をのろい、
行き着く先は森のはずれ。
鳥の古老が住むという、大きな樫の木の根もと。

「ふくろうじいさま!」

寝ぼけまなこをこすりつつ、
ふくろうじいさま語り出す。
ベスタバシャの身の上を。

父は赤、燃える炎の色。
母は青、澄んだ泉の色。
愛し愛され満たされて、天より授かるベスタバシャ。

ところがあるとき毒蛇が、腹をすかせて現れて、
ねらいを定めて飛びつくは、
まだ幼子のベスタバシャ。

わが子を守るそのために、
わが身を呈して戦って、
父母はいのちを失った。

その戦いに押し出され、
巣から落ちるはベスタバシャ。
まだ小さきその翼、
左は折れ、右は曲がり、
ようやく、いのちはとりとめた。

古老の話がとぎれると、
天地も裂けよと声を上げ、
父母を慕うはベスタバシャ。

あふるる涙に流されて、
翼のけがれは清めらる。
翼のいたでは癒さるる。

 顔を上げよ、ベスタバシャ。
 翼を広げよ、ベスタバシャ。

背と尾は赤、父の色。
翼は青、母の色。
父母のいのちを大きく広げ、
大空高く舞い上がる。

美しい鳥、ベスタバシャ。

(1997年10月20日)