みずうみ

結城浩

森をぬけると、みずうみが見えた。

いや、まだ森はぬけていない。 みずうみの向こうにもまだ森はつづいている。 僕がいままで歩いてきた針葉樹と同じ森が、 みずうみの向こうにもつづいている。

空は青い。 右手に白い雲が一つ浮かんでいる。 ゆっくり流れて、見えなくなった。 青い空。

みずうみは凪いでいる。 僕はみずうみへ近づく。 久しぶりの光の下。 首の後ろがあたたかくなる。 僕の影が目の前にのびる。

僕はみずうみを左手に見ながら みずうみに沿ってぐるりと一回りする。 影は僕のまわりをぐるりと一回りする。 森の奥で鳥の声が聞こえる。 足元の砂がきしむ。 右手で汗をぬぐう。

この森には僕しかいないのかな。 みずうみの中には大きな魚がいるのかもしれない。 けれども、まだ姿は表さない。

(1996年4月)