他の暗号本と比較

結城浩

2003年8月22日

『暗号技術入門 —— 秘密の国のアリス』の校正は続く。 PGPの章、SSL/TLSの章、そしてまとめの章。 うーん、おもしろい! 自分で書いておいて自分で言うのも何ですが、 まとめの章で行っている「暗号技術の道具箱」の解説なんか、 ちょっと感動しちゃった。

暗号技術および認証技術の話って、 Webのニュースなどでよく見かけるんだけれど、 何となくもやもやっとしている部分があった。 書かれていることはだいたいわかるんだけれど、 何だかこう、スキッとしない。 書かれてることを自分の頭で再構成できない。判断できない。

でも、この『暗号技術入門 —— 秘密の国のアリス』を読んでみると、 いろんな技術とその役割が明確になり、 またそれぞれの技術の欠点(というか、その技術がカバーしていない範囲)というのが明確になるように思う。 そういえば、 レビューアさんのアンケートの中にも、 「@ITの記事がすらすら読めるようになった」という感想を書いてくださった方がいた。 うん、まさにそんな感じですね。

本書を書くことになった背景はたくさんある。 暗号に興味を持つきっかけになったのは、 『PGP——暗号メールと電子署名』でした。1996年ごろのことだったと思います。 そして、一番お世話になったのは、なんといっても シュナイアーが書き、山形浩生さんたちが翻訳した 『暗号技術大全』ですね。 続編的な "Practical Cryptography"も大いに参考にしました。 山形さんにはメールでいろいろ相談させてもらいました。ありがとうございます。 そういえば、 打ち上げにもご招待いただきましたね。 感謝します。 わたしはこのときにはじめて山形さんにお会いしました。

「暗号学者の道具箱」という表現は、 これもまたブルース・シュナイヤー著、山形浩生訳の 『暗号の秘密とウソ』からお借りしたものです。

エニグマなどの歴史上の暗号については、 定番の 『暗号解読—ロゼッタストーンから量子暗号まで』がよかった。サイモン・シンの文章と、青木薫さんの翻訳ですものね。 執筆とは直接関係はないのですが、 以前メールをさせてもらったときに 青木さんから はげましのメールをいただきました。 ありがとうございます。

以上挙げた本と、わたしの『暗号技術入門 —— 秘密の国のアリス』との位置関係はおおよそ次のようになります。

  • 『暗号解読』は歴史上の暗号と人間ドラマに紙幅が割かれていたが、わたしの本はそれよりも現代の暗号技術に焦点をあてている。
  • 『暗号の秘密とウソ』は技術よりも考え方に中心があるが、わたしの本は暗号技術の「仕組み」に焦点をあてている。
  • 『暗号技術大全』はとにかく古今東西の技術を広く・深く解説しているが、わたしの本は重要な6つの技術を中心にわかりやすく解説している。
  • 『PGP』はPGPを中心に置き、歴史と仕組みと使い方を解説しているが、わたしの本は解説した暗号技術を組み合わせた例としてPGPを描いている。

さて、もうひと読みしよう。