技術系メーリングリストの運営

インターネット・コミュニティの歩き方

結城浩

今回は、技術系の「メーリングリスト」を運営するお話です。

キツネくんが結城さんちでごろごろしている。

キツネ: ねえ結城さん、暑いよう。クーラーいれてよう!

結城: え、そう? 窓からいい風が入ってきますよ。ほら。

キツネ: クーラー!クーラー!手っ取り早く涼しくなるクーラーがいいよう。

結城: ところで、今回はメーリングリストの「運営編」をやるっていってませんでしたか?

キツネ: いってたっけ? 前回は メーリングリストの「参加編」だっけ。暑いから忘れちゃったよう。

結城: わかったわかった。ではクーラーを入れましょう。ピ。

キツネ: (がばっと起きて)おお涼しい。じゃあさっそく運営編の話、聞かせてよ。

結城: 変化が早いな(苦笑)。 前回はメーリングリストといってもたくさんある、という話をしましたね。メーリングリストに参加するのは、情報収集や同好の士を見出す役に立つけれど、自分でメーリングリストを立ち上げる、というのはまた違う楽しさがあるものです。

キツネ: ねえ結城さん。そもそもメーリングリストを立ち上げるってどういうことなのか、ぜんぜんイメージわかないんだけど。順番に話してよ。

結城: そうだね。じゃあ、たとえば、自分が気に入っているソフトウェアのメーリングリストをインターネットで探したとしよう。でも見つからなかった。

キツネ: マイナーなソフトだな。

結城: そうかもしれない。でも、興味を持っている人を何とか探したい。ソフトの情報交換をしたり、疑問点を解決したり、ドキュメントを一緒に読んだり、面白い使い方を考えたりしたい。

キツネ: 疑問点だったら、ソフトの開発元に問い合わせればいいんじゃないの。

結城: そうだね。ちゃんとサポートしてくれるソフトだったらそれでOKです。でも、海外のソフトだとサポートがよくわからなかったり、フリーソフトだったらもともとサポートはそれほど手厚くないことだってある。

キツネ: ふんふん。

結城: そこで、そのソフトのユーザを集めたメーリングリストを立ち上げる。具体的には、 FreeMLYahoo!Japanのeグループで、新しくメーリングリストを作るのが一番楽だ。これらはフリーのサービスだから、お金はまったくかからない。広告が入るのがいやだったら、有料でメーリングリストを立ち上げることもできる。インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)ではよくメーリングリストのサービスを提供しているよ。

キツネ: なるほど。そうやってメーリングリストを始めると、ユーザがたくさん集まってきて楽しく情報交換できるわけだ……ってそんなにうまくいくとは思えないなあ。そもそも人は集まってくるの?

結城: メーリングリストを始めるのは簡単だけれど、人を集めたり続けたりするのは難しい。それで今日の話「運営編」になるわけですね。

☆     ☆     ☆

キツネ: たくさん人を集めるにはどうしたらいいんだろう。

結城: できれば、始めるときに自分一人だけではなく、友達や知り合いが一人二人いたほうが集まりやすいね。

キツネ: そりゃそうだ。誰もいないMLに参加したいとはあまり思わないからだな。

結城: そうそう。自分だったらどういうMLに参加したくなるだろう、と考えるとよいアイディアが沸いてきますね。

キツネ: なるほど。自分が参加したくなるようなMLのアピール方法を考えるのか。…と言われてもピンとこないな。たとえば?。

結城: たとえば、メーリングリストを作るときには、メーリングリストの紹介文というのを書くことになります。メーリングリストのサービスをやっているところでWebページとして表示される情報だ。メーリングリストを探している人は、この文章を読んで参加するかどうかを判断する。この文章はとても大切です。

キツネ: ふんふん。たとえばこんなのかな。 『絶対楽しいメーリングリスト!とにかく参加してみよう!』。

結城: いや、それじゃだめだよ。そういうのじゃなくて、そのメーリングリストの中心となる話題が何であるかをはっきり書くのがよいんです。

キツネ: なるほど、メーリングリストの中身を紹介するのか。確かにそうだよな。

結城: でないと、せっかく集まった人が何を話していいかわからないし、すぐにいやになってやめてしまうから。

キツネ: でも、たくさん集まらないとつまらないしなあ。メーリングリストの宣伝ってどうすればいいの。

結城: メーリングリストの宣伝は、自分の知り合いにメールを出したり、自分であちこちの掲示板などに書いたりする。それから似た分野を扱っている別のメーリングリストで宣伝することもできる。でも、掲示板でもメーリングリストでも、宣伝をいやがる人はとても多いから注意が必要だ。管理人さんに確認したり、文面に十分注意して反感を買わないようにする必要がある。

キツネ: 根回しも大事なのか。なかなか大変だな。

☆     ☆     ☆

キツネ: でも、自分が立ち上げたメーリングリストに何百人、何千人って集まったら楽しいだろうな。

結城: メーリングリストの運営に慣れないうちは十数人くらいですすめるのがいいんですよ。やみくもにたくさん集まってしまうと、収拾がつかなくなることもあるし。

キツネ: ふうん。管理者の仕事ってどんなものがあるの?。

結城: そうだね。簡単に図にしてみました。メーリングリストの立ち上げ、関連した情報のアナウンス、質問へのフォローアップ、話題からずれた発言への注意、それから…。

メーリングリスト

キツネ: もめごとが起きたときの仲裁も管理者の仕事になるんだよな。

結城: そうだね。ある程度活気があるメーリングリストだと、ある程度のもめごとは避けられない。でもそれもまた1つのチャンスになります。

キツネ: もめごとがチャンス? 何それ。

結城: もめごとを仲裁するときにはメーリングリストの性格付けをするチャンスなんですよ。『このメーリングリストはこういう話題を扱っているんですよ』とか『このメーリングリストではそういう発言は好まれません』ということだね。

キツネ: やれやれ、でもそれはかなり高度なワザに聞こえるなあ。メーリングリストのもめごとの仲裁とか、管理の方法とかはどうやって学べるんだろう。

結城: 学ぶ方法でもっともいいのは、どこかのメーリングリストに参加して、そこに流れているメールをよく読むことだよ。『こういう書き方をするともめごとが起きるんだな』『こういう応対をするともめごとが長引くんだな』ということを体験的に学ぶわけですね。

キツネ: 技術系のメーリングリストだと、技術力も必要そうだな。

結城: 技術力もそうだけれど、文章力はもっと大切だね。だってすべてのアクションはメールを通して行われるわけだから。管理者がすべての技術的内容を仕切るよりは、参加者を盛り立てるほうが雰囲気がよくなるように思いますよ。

キツネ: ところで、いま思いついたんだけれど、自分でフリーソフトを作ったとしますよね。 宣伝とサポートを兼ねて自分が作ったソフトのメーリングリストを立ち上げるという方法は有効かなあ。

結城: うん、それはとっても有効です。話題もそのソフトの内容にしぼられるし、自分が作ったソフトのことだから質問にも答えられるし、ユーザからの声を聞けるというのはとても参考になりますからね。

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ユーカリの葉をかじりながらコアラくんがやってくる。

コアラ: 結城さん。困ったよう(葉をかじかじ)。

結城: どうしたの?。

コアラ: 今度ね、仲間の勉強会の幹事にさせられたんだけど、参加者がよく変わるんです。はじめはメールアドレスをぼくが管理してたんだけど、だんだんわけがわかんなくなっちゃって…。しかも参加者は変わらなくてもアドレスが変わる人もいて、もうぐちゃぐちゃで…(かじかじ)。

結城: ほらまた葉っぱかじっちゃって。そういうときには QuickMLというメーリングリストを使う方法があるよ。

コアラ: 何ですかそれ。

結城: 少人数のメーリングリストを一瞬で作ることができるメーリングリストですね。特徴は、すべての操作をメールでできること。詳しい使い方はQuickMLのWebページを見てね。

コアラ: わかりました。そっかー、メーリングリストってそういう使い方もできるんですね。

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キツネ: メーリングリストの運営は大変かもしれないけど、何かカッコいいなあ。何だか喫茶店のマスターやプロジェクトリーダーになった気分がしそう。だってメーリングリストの管理者って一番偉いんだよね。

結城: あのね、キツネくん。 管理者の役割って、メーリングリストの規模で変化するんですよ。 人数が少ないうちは管理者…というかメーリングリストの主催者が適当にメールを流して話題をふったり広げたりすることが必要です。でも人数が1000人以上になってきたら、管理者はあまり表に出過ぎないようにしたほうがうまくいくと私は思いますよ。

キツネ: ん?何で?

結城: 参加者が管理者の顔色をうかがわずに自由に発言したほうが場が生き生きするからですね。管理者はそういう自由な雰囲気が壊れそうなときにちょっと顔を出して場を整えるくらいのほうがよいんですよ。

キツネ: そういうもんなかあ。何だかよくわかんないや。ともかく、今回はオレがまとめておくよ。

結城: うん、ありがとう。

キツネくんのまとめノート

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(このページは、 日経ソフトウェア誌への連載記事を元に再構成したものです。 Webでの公開を快諾してくださった編集部に感謝します)

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